光と闇と。






リアリティ10






「遅いわ!」
「ごめん、侑士!許してくれ」
教室に男二人の声が響いた。
もちろん、忍足と岳人の声である。
今、教室には忍足と岳人、二人だけである。
他にも何人か最初の方は居たのだが、岳人が問題を解くのに時間がかかってしまい、
「30分だけ」と言っていた忍足も、結局最後まで付き合っていた。
そのおかげで外は真っ暗になっていた。
「ほんまに・・・30だけやったのになー・・・」
「だからさっきから謝ってるだろ!?」
「・・・・」
忍足は岳人をじーっと見た。
「な、なんだよ・・・」
「行動でしめさんと、意味無いやろ」
「う゛っ・・・」
忍足は小さく息を吐き、教室を後にした。
岳人も後をついていった。






「ちょっとあそこに寄ってええか?」
の家に行く途中、忍足は小さな店の手前で止まった。
扉はガラスでできていて、明かりが漏れていた。
「ん?いいけど」
「サンキュウな」
忍足は小走りでその店へ行った。
岳人は、外で忍足を待つことにした。

忍足が店にはいると沢山の花が出迎えた。
色とりどりの花と花の臭いが扉を開けた瞬間にバッと広がった。
忍足は目当ての間のを探す。
キョロキョロと辺りを見渡して自分の欲しいモノを見るつける。
「あの花を一本ください」
そういって自分の右にある青いポリバケツを指しながら店員に言う。

「ありがとうございました」
忍足は花を一本持つと花屋を後にした。
店を出ると岳人が待っていた。
「意外に早かったじゃん」
「・・・・・岳人と一緒にせーへんといてーや・・・」
「悪かったな」
「・・・・・どうでもええわ・・・」
どうでもいいのかよ・・・・。
岳人は心の中でそう思った。
「それより、の家に早く行こうぜ!
 俺、スッゲー寒い中待ってたんだからな」
「せやな・・・」
忍足は小さく息を吐くと、ゆっくりと歩き出した。

「そう言えば、侑士」
「ん?」
「その花って何?」
「何って?」
「名前だよ」
「秘密や」
答えを期待していた岳人はがくりとうなだれた。
「教えてくれたっていいじゃんか」
「・・・・ヒントは『私を忘れないで』や」
「は?」
岳人は訳が分からない、とでも言いたげな顔をする。
「花言葉や。は・な・こ・と・ば」
「そんなこと俺に言われても分かるわけないだろ・・・」
「そうやろうな・・・」
「わかってんなら最初から言うなよ」
「岳人いじめると、おもろいやん」
「俺は侑士のオモチャかよ・・・」
「今頃気がついたん?」
岳人はウゲッと顔を歪めた。
その様子を見て忍足は苦笑した。
「冗談やって・・・本気にすなや・・・」
冗談に聞こえない。
この男は何を考えているか分からない・・・。
末恐ろしい男。
と、岳人の中にインプットされているので冗談に聞こえない岳人であった。






10程度歩くと、の家が見えてきた。
こぢんまりした質素な家。
の父親が帰っているのか、明かりがついていた。
忍足と岳人は玄関に行き、インターフォンを押す。
「こんばんは」
玄関のドアが開き、の父親が見える。
「君たちか・・・。こんばんは」
「お久しぶりです」
岳人が珍しく敬語を使う。
のお見舞いに来てくれたのか?」
「そうです。これをに・・・」
忍足は花をわたす。
「すまないね。・・・これは、ワスレナグサだね」
「知ってるんですか?」
「まぁ・・・花のことなら少しは知ってるよ」
「ワスレナグサって言うのか?」
岳人はちょっと感心したように言った。
「外で話すのも寒いだろう・・・。
 中に入って」
の父親に家の中にはいるように進められ、二人は中に入っていった。

の部屋で待っていてくれないか?
 今、お茶を用意するから」
「はい」
言われるままにの部屋へ向かっていく。

ゆっくりと扉が開き、忍足はその光景に顔を歪める。
点滴を手に打たれ、ベットの上で規則正しい寝息が聞こえる。
体は少し痩せたように見える。
毎日見舞いに来ている忍足だが、何度見ても慣れない光景だ。
痛々しい・・・。
周りの空気がそう感じられる。
・・・」
無意識のうちに名前を呼ぶ。
の近くに腰をかけて、頬に軽く触れる。
その姿に岳人は一瞬息をのむ。
同姓の岳人ですら、思わずドキッとしてしまうくらい綺麗だった。
忍足はを慈しむように見ている。
まるで愛おしい眠り姫の目覚めを待つ、王子のように・・・。

忍足は、眠っているに正しい姿勢をとってむき直した。
「今日の報告やで」
忍足はさっきまでの表情とはうってかわって明るい声で行った。
「今日はな、岳人のバカのせいでちょっと遅うなってしもうたわ・・・」
「なっ・・・・」
「ほんま・・・アンナ簡単な問題が解けへんなんて・・・」
「悪かったな!バカで!」
「別にそこまで言ってへんやん・・・」
「・・・・・・・・」
「ちょっと失礼するよ」
忍足と岳人の話の間に丁度よくの父親が出てくる。
「これを・・・・。寒かっただろうからコーヒーを入れてきたよ」
「すみません」
「お礼をしたいのこちらの方だよ
 毎日のためにすまないね」
「いえ・・・」
「それと、花はそこに飾っておくよ」
「ありがとうございます」
一輪挿しの花瓶をベットの近くに飾る。
「じゃあ、ゆっくりしていってくれ」
私は隣の部屋で仕事をしているから何かあったら呼んでくれ。
そう言い残して、出ていった。

「ゆうしー」
「なんや?」
「何でワスレナグサを買ったんだ?」
「何でやろうな・・・」
忍足はを見ながらぼんやり答えた。
に忘れて欲しくなかったんかもしれへん・・・・」
「え?」
「勿忘草の由来わな、・・・・・昔、仲のええ恋人がおったんよ・・・」
岳人は忍足が何を言いだしているのか分からなかったが、黙って聞いた。
「ある日のことや・・・。二人は散歩に出かけたんよ。
 それで、女の方が川の隅にさいとる花を見つけたんよ」
「・・・・・・・」
「男がな、女のために花を取ろうとしたん。
 で、男は流れの速い川に行って花を取ったんや。
 けど・・・・最後の最後で、流れに飲まれてしもたんよ・・・」
「・・・・・それで?」
「男は『私を忘れないで』と言って、花を女の方に投げた・・・・」
それが、勿忘草の由来や。
最後に付け加えていった。
「侑士・・・・・」
もしかしてお前・・・・と、言いかけて言葉を飲み込む。
これは決していってはいけないことだから。
特に今の忍足には。

小さな茶色いマグカップから、湯気が上っていた・・・・。





to be continuation.








長々とお待たせしてスミマセンでした。
復帰です。
今のところ、裏には回さないことにしました。
ご安心を。




感想があれば・・・。
誤字脱字もあれば教えて下さい。

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